
同じ日に入山した人との交流
どうもです。静寂です。
見学に行った数日後に私はお寺へ入山することになりました。前回↓
3月に入ってすぐだったように記憶しています。
3月と思えないくらいの寒さで体が硬くなっていたような。
もちろん緊張で硬くなっていただけなのかもしれません。
阿信さんが「よく来たね」と優しく出迎えてくれました。
ドイツ人の阿海さんとゴードンさんは庭作りに忙しそうで声をかけれません。
入山といっても最初はお客さん扱いで、特に何もすることがなくうろうろしていました。
実はこのお寺は一般の修行者が毎日のように来るという、人が苦手な私にとってとんでもない条件のお寺だったのです。
同日で入山した修行者は私の他に女性が二名。どちらも私と同年代で日本人の方でした。
一般の修行者は数日でお寺を去っていく人もいれば、数ヶ月滞在する人もいるよう。
外国人も多く来るそうで、とても貴重な体験ができそうな予感がしていました。
私はうろうろしていました。
無目的にうろうろ、うろうろしていました。
蔵の前で煙草を吸っているお坊さんを発見します。
「こんにちは、今日からお世話になる静寂です。よろしくお願いします」
私が挨拶したお坊さんは日本人で気の優しそうな目をしていました。
「ええ」
ちょっと元気がなく、あまり多く言葉を発してくれませんでした。
彼の名は阿隆さんということを阿信さんから聞きます。
「阿隆さんは僧堂から帰ってきたばかりだからね。今はそっとしておいておくのがいいでしょうね」
阿信さんはなんでも教えてくれました。
晩御飯から修行が始まった感じでした。
正座をして読経してから持鉢と呼ばれる5段に重ねられた器を順番に並べていきます。
詳しい作法はもう忘れてしまいましたが、最初は持鉢を落としてしまったり、並べ方を間違ってしまったりしていました。
作法に則って白米、味噌汁、おかずの順番に持鉢に入れていきます。
正座をして異様に静かな空間で、再び読経をしてご飯をいただきます。
箸より先にお椀を取れとか、音を立てずに食べろとか、米粒ひとつ残すなとか、気を使うばかりであんまり食べた気がしませんでした。
今日来たばかりの他の二人も慣れない作法に戸惑っているようでした。
全て食べ終えたら沢庵とお湯で持鉢を綺麗にします。沢庵を食べた後、持鉢を洗ったお湯も飲みます。
最初は気持ち悪かったです。食べ物を大切に、ってことでしょうね。
「あれちょっと抵抗なかった?」
同じ日に来た女性が声をかけてきました。当時あんまり女性と話したことがなかった私は冷静を装って「かなりありました」と返事していたような気がします。
夕食後には座禅の時間がありました。
私は座禅というものを知りませんでした。
それをこのお寺で行うことも知りませんでした。
座禅のやり方を阿信さんに教えてもらいます。
目は半分開いて半分閉じる半眼にして、足は両足を組む結跏趺坐か片足だけ太ももに乗せる半跏趺坐。手を組んで背筋を伸ばして……
何より終わりの合図の鐘がなるまで動けないのが辛い。
みんなよく我慢できるよな、と痛む足を気にしながら時を待ちます。
25分の座禅を3本行って、終わったらまた読経です。
異世界に連れてこられた実感が湧いてきました。
「足めっちゃ痛い」
「きつかった」
と座禅の後にあるお茶会で同期の3人で初座禅の辛さを分かち合います。
この時はただしんどい、きついだけで何も感じませんでしたが、座禅という名の瞑想体験は私の今後の人生に大いに役に立ちました。

次の日、朝の5時台から太極拳をします。座禅を2本しらからの日天清掃、そして朝ご飯のお粥を食べます。
なんと朝ご飯は毎日お粥でした。お粥万歳!
私はお粥が好きだから負担ではなかったですが、意外にお粥が苦手な人も多いみたいで、長くいる人で作法に則った食事で苦手なお粥で全く食が進まない、という方も見受けられました。
朝ご飯を食べ終えてから作務と呼ばれるいわゆる仕事や作業に入ります。
初日は草むしりをしたような気がします。
雑草は煩悩のように際限なく生えてきます。
煩悩をひとつずつ消すように、雑草を一本ずつ丁寧に抜いていきます。
というのは触れ込みで、抜いても抜いても終わりが見えない草むしりは少なくとも私には楽しいものではありませんでした。
でも初日はあまり考えずに作業をしていました。
午前中に途中に茶礼を挟んでずっと草むしりでした。
それから昼ご飯をいただきました。
昼はフリースタイルでビッフェのように好きなものを取って食べる形式です。
典座の方が作ってくれたご飯を腹一杯いただきます。
草むしりとはいえ久しぶりに働いた後にご飯を食べたので、すごく美味しく感じたのは覚えています。

昼ご飯を食べてからすることがありませんでした。
どこでどうなったのか、細かいことは覚えていませんが……
同期の3人でどこかへ行こうという話になり、近くに観光へいくことになりました。
そこで少しお互いの深い事情を話したりしました。
一人は受験で希望の大学に行けなかったということ、もう一人は最近までひきこもっていたことを言っていたように思います。
私も何らかのカミングアウトはしたかと思います。
当時はただのひきこもりでしたから、まだ病識もなく病名もつけられていませんでした。
観光先で撮った3人揃った写真を残して、同期は次々と普段の生活に戻っていきました。
そして新しい人が次々と来る環境に晒される日々を送ることになります。
始まりはそれなりの楽しさに包まれていました。
それからも刺激的な日々を送ることになります。
この時、まだ和尚さんにお会いできていませんでした。
次回は和尚編と題して書かせていただきます。
つづく