小説

タイトル未定の連載小説9

ペルソナ

父殺しの実行日、俺は精神集中していた。
俺がこの世の苦しみから逃れるにはこれしかない。
その後牢屋に入ろうが、撃ち殺されようがどうでもよかった。
自分の人生にケジメをつけたかった。

両親の寝室に金属バット持って入る。
足が震えて音を立てないように歩くことで必死になった。
俺は震えていない、絶対に震えていない。
そう自分に言い聞かせて俺はベッドの脇まできた。
手前で寝ているのが母、奥に寝ているのが父のようだ。
俺はリーチを伸ばして父の頭蓋骨を割ることだけを考えた。
父はどうしてこんなに理解がなかったんだ。
あの世で反省してほしい。
息子の苦しみを理解することすらしようとしないその姿勢を大いに後悔してくれ。
しかし金属バットをうまく振り下ろすことができないでいた。

父が死んでどうなる?
きっとどうもならない。

今までなかった考えが湧き上がってきた。
じゃあ誰が死ねば解決するというのだ。
俺か?
確かに俺が死んだらある意味問題自体が消滅する。
父が死ぬより合理的な死であった。
どうして俺は父と関係性を持たなければいけないのか。
父と赤の他人として生きれば共存できるのではないか。
何が俺と父を繋ぎ止めているのか。

――それは母の存在があるからだ。

母が俺と父との間を仲介していた。
母がいなければ父は俺に構わないし、俺も父に関わらない。
母が死ねば全ては解決する。
俺は標的を母の頭へ変える。
母のことは嫌いではない。
むしろたくさん助けられている。
でも母さえいなければ、父と関わることもなくなる。
母から出ている糸を全て切れば煩わしさから解き放たれるのだ。
母が死ぬことが一番俺にとっていいのだ。
俺は母から出てくる見えない糸に、今までずっと絡まっていたのような気がした。
母から出てくる見えない糸を断ち切らなければいけない。
俺は金属バットを振り回して見えない糸を切る。
しかし、見えない糸は金属バットにまで絡まってしまうような感覚に陥る。

「うわああああああああ!」

俺は声をあげて母の頭に金属バットを振り下ろす。
何度も何度も振り下ろす。
悲鳴よりも自分の声の方が大きく、その声で父が起きた。
父は命がけで俺を止めに入った。
俺は父ともみくちゃになってバットも奪われた。
しかし俺は目的を果たした実感があった。
手応えがあった。

そのうち警察と救急隊員がやってきた。
彼らは手際よく母を運んでいった。
救急車はサイレンを鳴らしながらどこかへ走り去っていった。
俺もパトカーの後部座席に乗せられ、取調室へ連れていかれた。

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