小説

タイトル未定の連載小説8

バット

俺は押し入れの中にあるはずの金属バットを探していた。
子供の頃からこの部屋にいるためなのか、物が多くて見つからない。
そして箱が出てきて開けてみる。
中には俺が小学生の頃に書いたと思われる4コマ漫画が入っていた。
興味本位で見てみるとオチも何もない、よくわからないもので当時はこれが面白いものだと思っていたのだろう。
ふと母に4コマ漫画を褒められた記憶が蘇ってくる。
「あんた漫画家になれるわ」
あの頃はよかった。
母は何かと俺を褒めて伸ばそうとしてくれていた。
それで伸びなかったのは俺のせいなんだろう。
俺は4コマ漫画を箱の中にしまって蓋を閉じた。
箱があった場所の下の方に金属バットが転がっているのを見つけて今夜の作業は終了となった。

思えば母に守られてきた人生だった。
習字の習い事が嫌で仕方なかった時、母に言って辞めさせてもらった。
父に叩かれて、母に告げ口をして怒ってもらった。
ひとりで外で遊んでいて、シャボン玉の原液が目に入って泣いていたらどこからか母がやってきて病院に連れていってくれた。
数えればキリがない。
今回の件も母が施設がどうのこうのと言ってくれなかったら、俺は父の罵声で正気を保てないでいただろう。

明日の夜中に俺の父親殺しは実行される。

あのカセットテープを聞いて気持ちを高ぶらせてやろうとスイッチを入れるが、声は聞こえてこない。
よく見たらテープが切れている。
このテープ、買ったのが小学生ぐらいの時だったから伸びてしまったのだろう。
今日は小さな頃を思い出してばかりだ。
実行が近づいていることがそうさせるのかもしれない。
俺はバットを持って布団の上に振り下ろす。明日の予行練習だ。
すると猫がびっくりして起きて部屋を出ていった。
猫と会えるのもこれが最後かもしれない、さすがに実行後元通りの生活ができるなんて考えてもいない。
どこかの牢屋の中で暮らして、塀の中で働かされるのだろう。
ふと、本当に俺の中に殺意があるのか疑問に思った。
俺は本当に父を殺したいのか。
殺したいくらいの敵意はあるが、殺すのはまた違うのかもしれない。
俺の中に迷いが生じる。
どうして?
どうして父親が憎い?
どうして殺さなければいけないのか。
だんだんと訳が分からなくなり、気が付いたらバットと猫に挟まれて寝ていた。
起きたら夕方でカラスの鳴き声がしていた。
酷く頭に響く鳴き声が不快で気が立った。
この時間にしては珍しく猫は俺の布団を占領していた。
まるでバットを振り下ろすなと言わんばかりだった。
「そんなこと言ってもな。もう決めたんだよ」
一度迷い出すと何が正解だか本当にわからなくなる。
そして実行日の深夜を迎えた。

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