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タイトル未定の連載小説5

闇夜の月

藤棚にいた女の人と話してから、父と顔を合わせることが多くなった。
例えば晩ご飯も食べずに寝ていたらご飯を食べに来いと言いに来たり、休みの日にもまだ寝てるのかと声をかけてきたり、以前より関わりが増えた。
以前の俺だったら嫌で仕方なかったことだが、藤棚の女の人と話してから気持ちが変わった。
父に対する怒りが俺の中で強くなっていた。
会うたびに睨みを効かせていた。
まるで殴り合いを求めているボクサーのように挑発していたのかもしれない。
心の奥にしまっていた父への怒りが解き放たれ、俺は自分の気持ちをコントロールできずにいた。
父に対する敵意だけが俺のエネルギーとなり、いつか殴り殺してやるとひとりぶつぶつと呟く。

そして事態は急変する。
ある日、父が帰ってくると俺がご飯を食べ終えているにも関わらずやってきた。
「おい、起きろ!」
父が乱暴に布団を剥ぎ取る。
布団の上で寝ていた猫はびっくりして逃げ出していった。
そんな猫以上に俺はびっくりしていた。
「これからどうするねん」
俺は答えなど持ち合わせていない。
「お前、働けよ。生活していかなあかんねん」
働けるものならとっくに働いている。
社会で通用する人間ではないのだ。
「なんか言えよ!」
ダンマリを決める俺と荒ぶる父はどこまで行っても平行線だった。
「お母さんがおらんかったら追い出してるんやけどな」
母が俺を庇ってくれたのか。
「また来るわ」
恐怖の一言を言い残して父は去っていった。

俺は横になる。
――これからどうしていく?
わからないのはこっちだ。
途方に暮れて、俺はラジオをつける。
今日は木曜日なのでラジオの彼女の日ではない。
こんな時はあのテープを聞こう。

テープの伸びはひどくなっていて声がうまく聞き取れなくなっていた。
「やっちまえよ」
急にテープから声が聞こえてくる。
こんなセリフ前に聞いた時入っていたか?
テープの伸びが原因だと思われる。
「先手必勝だぜ」
「殺しちまえよ」
「金属バットあるだろ」
そんな声が次々と聞こえてきた。
俺は震え上がった。
武者震い、なのかもしれない。
こんな俺でもやれるんだろうか。
俺は両手を見つめて心を落ち着ける。
そして窓を開けて月を探す。
優しい光を注ぐ半月が俺の心を落ち着けた。

殺人事件を起こそうなんてとんでもない。
そんなことしたら俺は殺人犯だ。
さらにひきこもりが親を殺したってワイドショーで血祭りにされてしまう。
もっと冷静に解決する方法があるはずだ。
父の圧力に屈する前に、俺は何かを見つけなければいけなくなった。

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