小説

タイトル未定の連載小説2

布団から猫


朝焼けに染まる時は短く、気がつけば日中と変わらぬ景色が広がる。
珍しいことに猫はまだ布団の上にいた。
母はまだ起きていないようで、猫は母の気配でいつも1階に下りているようだった。

鈍感な俺でも様子がおかしいことに気づく。
猫はいつまでも足元で寝ているし、母の気配はまだ2階にあった。
「風邪でもひいたのかな?」
猫に話しかけるように独り言を零す。
猫はあくびをして、丸くなるだけだった。
晩ご飯までには元気になるんじゃないか、と勝手な憶測を立てて俺も猫と共に眠りに落ちた。

次に目が覚めた時、いつも時間だった。
猫がにゃーにゃー鳴いている。
こんな時間に猫が俺の部屋にいるなんて今までなかったことだ。
母はまだ寝ているのだろうか。
もしかして……
それでも俺は部屋から出る気にはなれなかった。
晩ご飯なんて本当はどうでもよくて、妨害されずに寝ていたかった。
いつもは自分の生活を妨害されないために晩ご飯を食べているようなものだった。

そのうち妹が帰ってきて俺の部屋へやってくる。
「お兄ちゃん、お母さんどうしたん?」
「……わからへん」
「そっか。ご飯どうする?」
「いらん」
「お母さん寝込んでるみたいやし、こっちが作らな」
俺は妹に引っ張り出され、台所に立つことになった。
ほうれん草を茹でて胡麻和えにしたり、じゃがいもと人参を煮て肉じゃがもどきの煮物を作る。
作るだけ作って早く部屋へ逃げたかった。
「ただいま」
こうして俺は1年ぶりに父と顔を合わせることになる。

俺はぼそっと「おかえり」とだけ返事はしておいた。
父は俺の顔を見て一瞬びくっとなるが、すぐに表情は戻った。
気まずい空気にたえられない妹がずっと父か俺に話しかけてくる。
よくそんなに他愛のないことをつらつらと言えるもんだと感心した。
階段が軋む音が、気まずい空気を一変させる。
母が1階へ下りてきたのだ。
「しんどかってん。ご飯作ってくれてありがとう」
母がいるだけで家族は円滑になる。
母がいないともはや家族とは呼べない、とも言えようか。
それにしても父と並んで食べるご飯は全く味がしなかった。
この日、父は俺に何も言うことはなかった。

猫もいつの間にかご飯をもらっていたようで、いつものように夜中に俺の部屋に入ってきて足元に陣取った。
今日は火曜日だが疲れ果てて彼女のラジオを聞ける気がしなかった。
それでも聞き逃したくない。
頑張って3時まで起きて、カセットテープに録音するしかない。
俺の思いつくところで彼女の放送を逃さない方法は他になかった。
俺は3時に録音のボタンを押して、しばらくして寝てしまう。
「ごはんー」と母の声が聞こえて目を覚ました。
もう晩ご飯の時間かと思うとなんだか悲しくて気分が沈んだ。

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