小説

タイトル未定の連載小説1

猫と光

あと何年ひきこもればいいのだろうか。
トンネルを抜けるには死しかないのか。
母親が拾ってきた猫が私に懐いて、足元で丸くなって眠っている。

東向きの窓から見える朝日に反応して猫は起き、餌を貰うために1階へ下りていく。
動かしづらかった両足が猫の重さから解放されると、俺は体育座りをして太陽を睨みつけるように目を細める。
刈られた杉の木の間から差す光を直視すると何か本当のことがわかるような気がして、俺は夏の虫のように明るい光を弄っていた。
窓の下からおばさんがダミ声で「おはよう」と誰かに挨拶をしている。
いつものことだ。
ラジカセで音楽を聴くか、ラジオを聴くか迷いながらどちらも選択しない。
ダミ声のおばさんが話し始めたので、そちらに全神経を注いで必死に聞き取ろうとする。
「あんたなーよかったなー癌じゃなかったんやってな。ほんまよかったな」
今朝は俺のことを話していないようなので胸を撫でおろした。
朝日が語りかけてくる真実に身を包まれながら、俺はもう一度深い眠りにつく。

夕方目が覚めると「ごはんー」という猫を呼んでいるような母の声に導かれ1階へ下りる。母と妹と一緒にご飯を食べる。
父は仕事で夜遅く帰ってくるので顔を合わせることはなかった。
食べ終えるとすぐに2階へ戻る。2階には3部屋あり、6畳の俺の部屋と、6畳の妹の部屋、8畳の両親の寝室があった。
俺は自分の部屋へ戻り小さな音でラジオを聞く。
ギリギリ聞こえる音量にするのは父に俺の存在を示したくないからである。
父とは長らく話すらしていない。
1年ほど顔も合わせていない。
ただ父が寝室へ向かう足音だけが怖くて、いつもこっちに向かって来るのではないかと身を震わせていた。
父のいびきが聞こえてくるとラジオのボリュームを少し上げて、肩の力を抜く。
そのうち猫が寝るために部屋に入ってきて足元で丸くなり、俺は深夜のラジオを聞き漁る。

火曜日の深夜3時になると俺がひいきにしているパーソナリティが声を轟かせる。
まだあまり売れていないバンドの女性ボーカルのラジオだった。
彼女は俺よりたった4歳上なのにすごく大人に見えた、いや聴こえたのはなぜだろう。
俺は彼女の言葉や感性、声色などに夢中だった。
聴くだけで癒しになった。
彼女のラジオが終わると外から雀の鳴き声が聞こえてくる。
そしてカラスがデリカシーのない声で鳴き散らす。
それでも静けさは彼らを許容していた。
俺はこの時間帯が大好きだった。
猫は相変わらず足元で寝ている。

俺はずっとこんな生活が続くものだと思っていた。

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